だしのこと

だしを知れば、料理がわかる。

「まずは、だし」にこだわる理由

こうして、だしの世界に向き合ってみると、全ての食材に「だし」の可能性があることがわかる。食べ物は、旨いから食べるので、旨いものには何にせよ、だしがあるのだと思う。
ただ、だしは「濃ければいい」というものではなく、あくまでそのバランスが大事。例えば、合わせる食材がさっぱりとしていれば淡白なだしを、しっかりとインパクトがあるものなら、濃い目のだしを。料理の仕事をどれだけ続けていても、やはり原点は、「だし×食材」の基本をしっかり心得たいと思うのだ。

料理が苦手な人ほど、だしを覚えるといい

料理が苦手、やりたくない、という人も、もちろんいると思う。でも、どんな料理でさえ、一度も作らないで一生を終える人は、世界にどれだけいるだろう?
いまはネットであらゆるジャンルのレシピが手に入る、便利な時代。でも、「大さじいくつ、小さじいくつ」といった細かなレシピを、レパートリーのぶんだけ覚えるのは不可能なこと。そんな中、だしの基本を一通り覚えてしまうのは、実はとても合理的なことだと思うのだ。「だし×食材」の掛け合わせは無限大。だからこそ、だしの基本さえ分かっていれば、細かいレシピがなくても、スーパーに並んでいる旬の食材を見ながら、良い意味で適当に、一食の献立が組み立てられるようになるのだから。

最後にひとつ。せっかくだしを取るなら、その少しの時間だけは、料理に思いを馳せ、ぎゅっとだしに集中してほしい。お湯の温度や、だしを引き出すタイミング、保存のひと手間…。高級な食材を使わなくても、何時間も鍋にかかりっきりにならなくても、ほんの少し、だしに集中する時間が、料理を何倍にも美味しく変身させてくれるのだ。

せっかく作るなら、美味しいものを食べたい。だしを知ることは、その「せっかく」の手間を何倍もの美味しさで返してくれる、一生モノの知識だと思っている。

大黒谷寿恵

石川県金沢市出身。 大学卒業後、料理の世界へ。2003年カフェレストランbijurei(東京)で料理長、2004年レストランa.k.a.にて料理長。2006年より音楽プロデューサーの小林武史さんがプロデュースするkurkku cafeにてオープニングよりディレクター兼料理長を務める。
2007年6月に独立し、講師、ケータリング、出張シェフ、レシピ開発など活躍の幅を広げる。2009年より鎌倉に住まいを構え、料理教室「寿家」をスタート。
野菜や日本の伝統食材を使った料理が得意。